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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1008号 判決

反訴原告

甲野一男

反訴原告

甲野花子

右両各訴訟代理人

下光軍二

外三名

反訴被告

乙山明

反訴被告

丙川月子

反訴被告

丙川太郎

右三名訴訟代理人

小玉聰明

北郷美那子

主文

本件反訴を却下する。

反訴費用は反訴原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  反訴原告ら

1  反訴被告らは反訴原告らに対し、左の金員をそれぞれ支払え。

(一) 反訴被告乙山実は各金三五〇万円及びこれらに対する昭和五五年六月二六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員

(二) 反訴被告丙川月子は各金二〇〇万円及びこれに対する同年同月一四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員

(三) 反訴被告丙川太郎は各金二〇〇万円及びこれに対する同年同月一三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員

2  反訴費用は反訴被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  反訴被告ら

主文第一項同旨

第二  主張

一  反訴の請求原因

1  反訴原告らは夫婦で、訴外乙山雪子(以下「雪子」という。)の養父母であり、反訴被告乙山明(以下「明」という。)は、後記のとおり雪子と婚姻した者であり、反訴被告丙川月子(以下「月子」という。)は雪子の実母であり、反訴被告丙川太郎(以下「太郎」という。)は、雪子の叔父(実父の弟)で、かつ反訴原告花子の実兄である。

2  反訴原告らは、昭和三一年一〇月一日雪子と養子縁組をなし、以来同女を掌中の玉として養育し、昭和五一年五月まで約二〇年間平和で幸福な家庭生活を営んできた。反訴原告ら夫婦には実子がなかつたところから、雪子にいわゆる甲野家を継承して貰うことを期待し、同人もその期待に応えたいと口癖のように言つていたのである。

3  明は、三重県桑名市に居住する者で、しかもいわゆる乙山家を継承すべき立場にあるにもかかわらず、雪子が右のとおりいわゆる甲野家を継承しなければならない身分であることを熟知しながら、桑名市で共に居住することを前提にして雪子に結婚の申込みをした。そして、右両名は昭和五〇年頃二人だけで結婚することを取り決め、事後承諾を求められた反訴原告らが明の身辺等の調査や家庭状況等の聞込みをするや、明は、これに難癖をつけ、このような養父母とは離縁しない限り、雪子と結婚しないと強く同女に申し向け、婚期を逸しかねない年令に達していた同女をして、昭和五二年五月反訴原告らに対し離縁を求める訴訟(東京地方裁判所昭和五二年(タ)第二〇四号事件、以下「本件離縁訴訟」という。)を提起せしめるに至つた。本件離縁訴訟は、昭和五四年一一月三〇日八枝子勝訴の判決が言渡されたため、反訴原告らにおいて控訴し、現在東京高等裁判所昭和五四年(ネ)第二九七九号事件として係属中である。

4  そのうえ、明と雪子は、昭和五五年三月六日、反訴原告らには一言の相談もなく、結婚式を挙行し、披露宴を開き、更に同月一八日婚姻の届出をした。勿論反訴原告らには列席の招待もなく、更に右両名が知友に出した挨拶状には雪子が反訴原告らの養子であることを示す記載はなく、月子の三女とのみ表示されていた。雪子が以上のような反道義的な行為にでたため、反訴原告らは、遂に同女との離縁を決意し、昭和五五年四月二二日本件離縁訴訟の係属する東京高等裁判所に対し、離縁を求める反訴を提起した。

5  ところで、月子は雪子の実母であるところから同女の身柄を引取つて本件離縁訴訟を推進し、更に反訴原告らを抜いた前記結婚式を挙行せしめたのであり、又太郎は前記の諸事情を熟知しながら、雪子の右結婚に賛同し、その結婚を推進して、前記挙式をなさしめた者である。右各行為のため、反訴原告らと雪子との養親子関係は破綻し、反訴原告らは後記のとおり甚大な精神的損害を蒙つたのであるから、右各所為が不法行為に該当することは明らかであり、雪子及び明の前記各行為も同様不法行為に該当するのであつて、以上四名は共同不法行為者として、反訴原告らの蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

6  反訴原告らは、前記のとおり雪子が八歳の時からこれを引取つて二〇年間深い愛情をもつて養育してきたのであつて、将来、同女がいわゆる甲野家を継承し祖先の祭祀を全うしてくれることを期待していたのであるが、養親子関係の破綻により今はその期待を裏切られ、筆舌に尽し難い甚大な精神的苦痛を味つている。この苦痛を慰藉するための慰藉料として、反訴原告らに対し、それぞれ明は各金三五〇万円、月子及び太郎は各金二〇〇万円を支払うべきである。

よつて、反訴原告らは、本件離縁訴訟における反訴として、反訴被告らに対し、それぞれ右各金員及びこれらに対する本件反訴状送達の日の翌日以降各完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴被告らの本案前の答弁

1  本件反訴は、反訴の要件である本訴請求との牽連性を欠き、不適法であるから却下されるべきである。即ち、本訴においては、本件養親子関係につき離縁原因の有無の点をめぐつて原審以来争われたものであるのに、本件反訴の請求原因は反訴被告らの不法行為を理由とするものであるから、両者の間に牽連性は認められない。

2  本件反訴は、本訴の控訴審に至つて本訴の当事者以外の第三者を相手どつて提起されたものであるから、不適法であつて却下を免れない。

三  本案前の答弁に対する反訴原告らの反論

本件反訴は、本訴の控訴審において本訴の当事者以外の第三者を相手どつて提起されたものではあるが、かかる訴も人事訴訟手続法(以下単に「人訴法」という。)の趣旨に照し許容されるものと解すべきである。即ち、本件反訴は、離縁の原因たる事実によつて生じた損害賠償請求であり、その事実が共同不法行為によるものであるから、反訴としてその共同不法行為者をも訴えることが可能であることは論をまたない。特に人訴法は、被告は反訴の事由として主張することを得べかりし事由に基づいて独立の訴を提起することを得ない旨規定している(同法二六条、九条二項)から、第三者に関する主張であつても、それが本訴原告との共同不法行為である限り、本訴被告は右規定によつて別訴提起が不可能となる。従つて、右第三者に対しては反訴を提起してその者に対する請求権を行使するほかはないのであり、訴訟経済と矛盾した判断の防止の必要性から、控訴審においても右反訴を提起し得ると解すべきである。

もつとも、右のように控訴審における第三者に対する反訴提起を認めるならば、反訴の被告とされた第三者の第一審の利益を奪う結果となり、憲法上保障された裁判を受ける権利の侵害になるのではないかとの疑問がある。しかし、憲法は、すべての訴訟事件について三審制を保障しているものではなく、事件の特殊性によつては二審制の訴訟を認めていると解すべきであり、本件のような場合も、人事訴訟の特殊性に鑑み、人訴法が無条件で控訴審における反訴を容認し(同法八条)、かつ前記のとおり別訴禁止の規定を設けている以上、第一審が省略されるという結果を生じても訴訟の構造上やむをえないことといわなければならない。

第三  証拠関係〈略〉

理由

まず本件各反訴の適否について検討する。

本件各反訴は、本件離縁訴訟(本訴)の被告(控訴人)である反訴原告らが控訴審において右訴訟の当事者以外の第三者である反訴被告らを相手どつて提起したものであることは、記録上明らかである。反訴原告らは、本件のような反訴も人訴法の趣旨に照し許容されるべきである旨主張するが、以下に説示のとおり、当裁判所は右見解には到底左袒することはできない。

そもそも反訴の制度は、原告に訴の変更を認めることの均衡上、被告においても、本訴と一定の関係にある新たな訴を本訴と同一の訴訟手続で審理、裁判して貰えるよう保障するために設けられたものである。従つて、反訴の要件を定めた民事訴訟法二三九条は、反訴の相手方とされる者は本訴の手続において既に当事者となつている者即ち本訴の原告に限られることを当然の前提にしていると解される(このことは、同法二三二条が反訴の制度と対応する訴の変更につき、当事者の同一であることを当然の前提として請求の趣旨又は原因に限り変更を許容していることからも察し得られるところである。)のであつて、本訴の当事者以外の第三者に対する反訴というがごときことは、法の全く予定していないところといわなければならない。この理は、本件の場合のように、本訴の原告と共同不法行為者の関係にあるとする第三者に対する反訴の場合にも等しく働らくのであつて、この場合に限つて別異に解すべき根拠はない。反訴原告らは、本件のような場合人訴法二六条、九条二項により、反訴原告は本訴原告と共同不法行為者の関係にある第三者に対しては別訴を提起することが許されず、反訴によるほかはないとし、それを立論の根拠とするのであるが、右条項によつて別訴が禁止されるのは、現に係属する訴訟の請求と同一の身分関係に関する同種類に属する他の請求に限られるのであつて、本件におけるような損害賠償請求についてまで同条項が別訴を禁止し反訴によるべきものとしているとは到底解することができない。

以上のとおり、第三者を相手方とする本件各反訴は、法の許容しないものであるから、不適法として却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条本文、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(杉田洋一 中村修三 松岡登)

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